相続放棄手続き

遺産の中に借金などの負債が含まれている場合には、相続放棄をすることによって相続を避けることが効果的な対処方法です。相続放棄をすると、プラスの財産も受け取れなくなりますし、手続きには期限もあるので注意が必要です。

相続放棄とは

相続放棄とは、一切の遺産相続をせずにすべてを放棄してしまうことです。

人が亡くなって相続が開始したら、法定相続人が法定相続分に従って遺産を相続することが基本です。遺産としては、現金や預貯金、不動産などのプラスの資産を思い浮かべるかもしれませんが、被相続人(亡くなった人)が借金を残して死亡するケースもあります。

遺産相続は借金も相続されてしまうので、注意が必要

相続財産の中から借金を支払えない場合には、相続人が自分の財産から被相続人の借金を支払わないといけません。

そこで、このように借金を支払いたくない場合において、相続放棄を利用します。相続放棄をすると、その人は初めから相続人ではなかったことになるので、借金も相続せず、その支払をしなくても良くなります。

借金があるのに相続放棄しないで放置しているとどうなるのか?

それでは、遺産の中に借金があるのに、相続放棄をせずに放置していたらどのような問題があるのでしょうか?

 

相続人自身の財産が差し押さえられてしまう!

この場合、まずは相続債権者から借金の支払督促が来ます。電話や郵便などで督促が来るので、まるで自分が借金苦であるかのような扱いを受けます。支払をせずに放っておくと、相続債権者から裁判を起こされてしまいます。そして、裁判所が判決を出したら、相続債権者は、相続人の遺産に対して強制執行(=差押)をしてきます。

 

このとき、差押えの対象になるのは、被相続人の遺産だけではなく、相続人自身の資産も含まれます。もし相続人に自分の家がある場合、相続債権者はその家を競売にかけて債権回収することもできるのです。借金を相続すると、その借金は「被相続人の借金」ではなく「相続人自身の借金」になってしまうからです。

 

このように、相続放棄をせずに相続することを単純承認と言いますが、遺産の中に借金が含まれているなら、単純承認せずに、早期に相続放棄すべきです。



撤回できる?

相続放棄には、3ヶ月の期間がありますが、一回手続きをしたら、たとえその3ヶ月の期限内であっても取消ができません。たとえば、借金があるとわかって相続放棄したけれども、後で気が変わったから取り消すことはできないので、注意が必要です。

 

ただし、民法第919条2項では、相続放棄の取消ができる可能性があることを定めています。たとえば、詐欺や強迫行為によって無理に相続放棄させられた場合(民法96条)、未成年者が単独で(法定代理人の同意なしに)相続放棄した場合(民法5条)、成年被後見人が自分一人で相続放棄をした場合(民法9条)には、取消が認められます。これに対し、単に「後から財産があるとわかった」だけでは取消はできないので、覚えておきましょう。


相続放棄のメリット

相続放棄の一番のメリットは、負債を相続せずに済むことです。たとえば、被相続人がサラ金やクレジットカードで借金をしていた場合、被相続人が事業者で銀行などから借入をしていた場合、被相続人が誰かの連帯保証人になっていた場合、そのまま相続をすると、相続人がその返済をしなければなりません。

 

相続放棄のメリットの2つ目は、遺産分割手続きにかかわらずに済むことです。

 

自分が法定相続人になっている場合、いろいろな遺産分割手続きを進めていく必要があります。まずは法定相続人が集まって遺産分割協議をしなければなりませんが、お互いに意見が合わずにトラブルになることも多いです。

 

トラブルが長引いたら家庭裁判所で調停や審判が必要になり、解決までに3年以上かかることも普通にあります。また、被相続人が事業をしていたら準確定申告が必要ですし、相続税が発生したら相続税の申告と納税も必要です。不動産を相続したら、不動産の相続登記もしないといけません。

 

次に、相続放棄をすると、自分の相続分が他の相続人に配分されるので、他の相続人の遺産取得分が増えます。このことにより、特定の相続人に遺産を集中させることができます。

 

たとえば、兄弟3人が遺産相続をするときに、家を継ぐ長男に遺産を相続させたい場合などがありますが、その場合、相続を希望しない相続人が全員相続放棄をしたら、長男がその分の遺産を相続することができます。



相続放棄のデメリット

借金を相続しなくて良くなることに注目してしまいがちですが、実際には借金だけではなく、プラスの資産も相続できなくなることに注意が必要です。

たとえば、遺産の中に不動産がある場合や高額な預貯金がある場合、相続放棄をするとそういった資産も承継できなくなります。もし、負債を超える資産があるのにそれに気づかずに相続放棄をしてしまったら、全体として損をしてしまうことにもなります。

例をみてみましょう。父親が亡くなったときにサラ金で50万円借金があるとわかったので息子たちが急いで相続放棄をしたら、その後100万円のタンス預金があることがわかったとします。この場合、息子たちは預金をもらうことはできなくなり、損をします。はじめからきちんと財産調査をしていたら、100万円から50万円の支払をして、残りの50万円をもらうことができたはずだからです。

 

遺産の中には、先祖代々伝わる不動産もありますし、父母が生前大切にしていた宝石類や骨董品、自分が育った思い出の生家などもあります。

こうした思い入れのある資産であっても相続放棄をすると一切受け取れなくなります。

他の相続人が相続してくれたら資産としては守ることができますが、自分しか相続人がいない場合や、相続人が全員相続放棄してしまったら、相続財産管理人が精算をして売り払い、最終的には国のものになってしまうのです。



相続放棄の期限

相続放棄の期限は3ヶ月です。

相続放棄にはメリットもデメリットもあるので、実際に相続放棄すべきかどうか、迷ってしまうことも多いです。しかし、相続放棄には期限があるので、いつまでも迷っていることはできません。

 

相続放棄の期限のことを「熟慮期間」と言い、民法によって定められています。民法第915条は、「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内」に相続放棄か限定承認か単純承認を選ばないといけないと規定しているのです。